毎年9月中旬から10月初旬にかけて吹く北風を、地元の漁師は「あご風」と呼びます。この風が吹いたら、近海にあご(とび魚)がやって来たという合図。平戸の漁港はにわかに活気づき、いっせいにあご漁へと繰り出します。
長崎県では「かつおだしに負けん旨かだし」として日常的に使われるあごだし。希少価値が高いため高級素材として人気が高く、福岡では焼きあごでだしをとる博多雑煮が伝統として受け継がれています。
 
その焼きあご作りが古くから最も盛んで、今も昔ながらの製法を守っているのが、九州本土の西北端に位置する長崎県平戸漁港。創業100年の林産業林征男さんが言うには「うなぎのかば焼きみたいに作るとですよ」水揚げ後すぐの新鮮なあごを金串に連ねて刺し、備長炭の炭火でじっくり火を通して旨味を凝縮させます。こんがりと焼きあがったら乾燥させ、香ばしい焼きあごができあがります。それにしても手間ひまのかかる作業です。「ガスじゃこの風味にならんとです。大変ですが炭火じゃないと」
「あごが落ちるほど美味しいから」がその名の由来とも言われるあご。その力強い風味を生み出すのは、自然の力と先人の知恵、そしてやはり人の手のぬくもりなのです。
 
 
 
九州本土最南端の鹿児島県枕崎市といえば、300年以上の歴史をもつ、言わずと知れた日本一のかつお節の産地。漁港周辺にはかつお節の加工業を営む家が点在し、町をあげて地場産業を盛りたてています。
丸国鰹節店もその1軒。漁師の家に生まれ、親戚の鰹節店で修行した上釜潤一さんが、27歳の時に独立して製造・販売を始めました。
かつお節づくりで一番大切なことは何ですか?そう聞くと、意外な答えが。「美的感覚が大事ですね」
つまり良いものをつくるには、まず良い素材を見分ける目が必要。そして、ひいた時に透き通って薄桃色の花のような削り節になる。見た目にも美しいかつお節こそが、美味しいかつお節なのだということです。
もちろん素材や鮮度や、手間をかける工程は言わずもがな。ほどよく脂の乗った新鮮なかつおを下処理し、3〜4つに割ってボイルします。1本1本丁寧に骨を取り除き形の良い“節”に仕上がるよう、身の崩れがある場合はすり身を付けて補修します。これらはすべて手作業。雑味の抜けたかつおは、くん製室に運ばれ、約15日間かけてじっくり燻しあげられます。熱と煙で身が締まり、大きな切り身が拍子木のように縮んで硬くなれば、旨味が凝縮された“荒節”の完成です。
今や和食の基本として、料理に欠かせない花かつおの元となる荒節。イノシン酸など旨味成分は20種以上、香り成分は90種以上とも言われ、それらの相乗効果で多彩な風味が生まれているといわれています。古くは『古事記』にも登場するほど日本人に馴染みが深く、現代においてはその栄養の高さも見直されているかつお節。時を経ても変わらない製法と職人さんたちのだし作りへの思いが、心に刻まれる鮮烈な美味しさとなっているに違いありません。
 
 
天草から半島を下り海岸沿いをひた走ると、眼前に牛深漁港が開けます。潮風にのって鼻孔くすぐるのは、魚の削り節の良い香り。辺りを見渡すと、あちこちから煙が立ち上がっています。
「あれは魚をくん製している煙です。初めて来た人は火事だとびっくりするみたいですが(笑)」とで迎えてくださったのは、ヤマム水産の山本勝広さん。牛深は江戸時代から、いわし節やさば節など、かつお節以外の“雑節”の生産が盛んで、今も日本一の生産量を誇っています。山本さん一家も3代に渡って節原料の加工業を営んでいます。加工上では熟練の職人さんたちが黙々と作業をされていました。「いわしは魚の中で最も足がはやい。鮮度を落とさないよう水揚げ後1時間以内に加工します」
新鮮なうるめいわしを水洗いし、丁寧にうろこを取って、大きな釜で熱湯に浸け22分。茹でることで適度に脂が抜け身が締まります。茹で時間が短いと味が悪くなり、長すぎると腹の部分が開きすぎてしまうということで、この22分という時間も先人が経験から導き出したもの。茹であがったいわしは24時間かけてじっくり乾燥させ、いよいよくん製室へ。薪をくべて勢いよく燻し、冷ましてまた燻してと1昼夜。炎が燃え盛るくん製室での作業はまさに命がけで「火傷もしょっちゅう。父やベテランの職人さんたちは皆、手がグローブみたいになっていますよ」と山本さん。それでも昔ながらの製法を守り続けるのは、「やはり味の深さが違いますから」削り節になる前のいわしを1尾、いただきました。香ばしく旨みがあり、噛めば噛む程、中から旨味が出る美味しさです。
風味がよくどんな料理にもあわせやすいいわし節。最近注目を集めてDHA、EPAといった栄養素が豊富なのも、うれしいところです。
   
北海道酸の真昆布は、利尻、羅臼と並ぶ3大高級昆布として知られています。澄みきったコクのあるだしがとれ、料亭などでも欠かせない存在です。昆布の漁期は初夏。水揚げ後、汚れを丁寧に取り、浜辺で1枚1枚天日干しします。その後、乾燥と按醸(熟成)を繰り返し、仕上げまでおよそ2ヶ月という時間をかけて作られます。昆布の旨み成分は、赤ちゃんがはじめて口にする母乳にも含まれるというグルタミン酸。甘みのある優しい風味で、かつおなど削り節のもつ旨味を一段と引き立てます。
   
「塩梅」という言葉もあるほど、料理にとって味の決め手となる大切な塩。うめ屋の「和風だし」には、博多山笠の清めの塩としても献上されている『博多山笠の塩』をしようしています。万葉集の時代から塩づくりの伝統をもつ、玄界灘志賀島沖で採取した海水を、最新の設備と技術でろ過して凝縮。55度の低温でじっくり炊き上げるため、各種の天然ミネラル成分もそのまま。甘くまろやかな味わいで、だしの旨みを引き立て、お料理全体の味を引き締めます。
 
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